「松阪から四季 納豆の如く」



納豆職人 奥野 敦哉

「第十三章 続・君も納豆体験を・・・」
先月号から"誌上"納豆体験ツアーへ読者の皆様に参加をしていただいております。先月は「納豆工場見学〜納豆ができるまで」で納豆完成のところまでご案内をさせていただきました。今月はその続きから始めようと思います。

納豆体験ツアーとは、お客様に当店工場内を見学していただいて納豆がどのように作られるのかをご案内し、納豆の世界に楽しく浸ってもらうものなのですが、そのメインイベントが、ご自身で納豆つくり、そして、オリジナルの納豆ラベル作成を体験していただくところ、2大体験カリキュラムにございます。
この場合の納豆つくりは「納豆ワラつつみ」に限定しております。
これは、釜蒸し作業や、菌接種から行ってしまいますと、納豆の品質が不安定になる恐れがあり、どのような幼いお子様のお客様でも楽しんでいただけるように、難しい釜蒸し作業から菌接種までは当店の職人で行うという考えでいます。
もちろん、豆を洗う仕込みの所からの全ての作業を行うことは面白く、現に私は小学校の体験学習に講師として小学校に出張し、生徒の皆様と一緒に過ごすこともございますのでそのような完全体験学習にすることもできるのですが、体験学習は発酵の失敗や味のマズさも教育のうちで楽しみであるという性質ですのでどのような結果になっても許されますが、お客様に提供するサービスという性質を持つ当工場で行う納豆体験ツアーの場合は失敗は許されませんので"お客様に任せて失敗の起こる確率高い作業を回避すること"と"体験する、触れることで感じる楽しさ"を両立しなければならず、バランスを取っているうちに今のスタイルになっっていったのです。

ていねいにワラ包み
さて、ワラ包み体験ですが、ワラをたくさん束ねた民芸大つとワラというものを使います。
ワラ包み作業、これは本当に楽しい。普段、自分が作業をしていましても楽しいのです。

それが、時間(作業効率)のプレッシャーもなく心行くまで1本のワラ納豆包み作業を行えるなんて・・・。少し歪んでいるな、とか、このワラ1本変な方向に出ているのを抜いたら綺麗な形になるとか普段はそのようなことは考えませんので、できるだけ早く、たくさん、それでも形良く・・・と我々職人は作業しているわけです。それが納得いくまで1本を見つめ、整えるのです。当事者のお客様ならば「これが自分の納豆かぁ!」とか「どのような味になるのだろう?」とか「あのひとにこれをたべさせてあげたいな。」とか色々と思いをめぐらせて楽しんでいるのではないでしょうか。

すこし話の筋をズラします。
触れるのが後になりましたが、この納豆体験ツアーの料金なのですが"参加料1人いくら"という形はとらず"体験納豆代1本315円(1グループ10本以上で・送料込)"として設定しております。
参加料金を納豆代にした理由は、
1.少人数でも人数が増えても楽しめ、人数が増えれば一人当たりの負担が少なくなること。
2.お客様が途中で納豆本数を追加できること(結構いらっしゃいます)。
3.見学のみですと料金が発生しないこと。
の3つです。これらのことはお客様にとっても当店にとっても有益な設定となっております。

送料込みは10本分の代金が集まれば送料金額分は捻出できますし、送り先もグループ代表者にまとめて発送となり1回分で済みますのでご家族は言うに及ばず大学サークル旅行などのグループ旅行のお客様にも対応できるのです。
また、見学のみのお客様から何も代金をいただかないのですが、もし見学料とか入場料とか徴収すれば、知らず立ち寄ったお客様は渋々支払われ当社は潤うでしょうがすぐにお客様は寄らなくなってしまうことでしょう。長く先を考えるならば、納豆文化に少しでも触れていただきたい、また、社会見学でも利用をしていただきたい。納豆材料費が発生しないので案内に人員が割かれるくらいは良しとし、気軽に色々な方に見学をしていただきたいと私は思うのです。
ラベルの作成は納得いくまで
話の筋を戻しまして、民芸ワラの手包み作業ですが10本の申し込みのグループがほとんどで、10本以上の申し込みをされるグループは参加者が10人以上という場合で稀です。
申し込み10本という数字は平均的な参加人数の4人(大人2人・子供2人)ですと、大人2本ずつ子供3本ずつであったり、お子さんに10本をさせて親御さんが手伝うというパターンであったりします。
また、お一人二人の少人数参加の場合は10本みっちりと包みますのでコツをすぐには助言いたしません。2〜3本思うがままに行い、見た目は簡単なのにうまくいかないなと思えてからコツを少しずつ伝えさせてもらっています。
だんだん上手くなったなぁとお客様は嬉しさがこみ上げてくることでしょう。

逆に10人くらいの多人数参加の場合ですと一人あたりで1本だけしか行き渡りませんので皆それぞれ1発勝負になりますから説明は作業を行う前に全体に聞こえるように大きな声でゆっくり丁寧にコツも織り交ぜながら模範作業を行います。
一通り説明を終えてから一斉にワラ包み作業を始めていただきます。人数が多いのでワイワイガヤガヤと皆しゃべりながら包みますので楽しい時間が流れます。多人数参加の時は最初は1本だけで終わってしまう単調さが不安でしたが、それは思い過ごしでした。
少人数には少人数の、多人数ならば多人数の"間(ま)"が流れ行くことがわかりました。いまでは、どの状況でも皆様に楽しく過ごしていただいております。
ワラ包み体験が終了しましたら次に「オリジナルラベル作成」です。
皆様の旅の思い出に自分だけのデザインを描いていただくのです。

これは工場の上階にあります応接間に場所を移して行っていただきます。デザインはお客様が納得いくまで練習され、清書を完成されるまで制限時間ナシで応対しております。お客様は世界で一つしかないオリジナル納豆に思いを込めて作成を楽しまれます。

また、応接間は12畳ほどの部屋でソファと机で作業を行うには入っても15人ほどで、それ以上の参加人数となる場合は「松阪農業公園ベルファーム」様にご協力をいただいております。
これは学校の社会見学や会社団体様の観光旅行などの体験バスツアーで20人〜40人ほどで参加をされる場合です。ワラ包み体験が終了した後、納豆工場から松阪インター近くのベルファームまで20分ほどでバス移動し、広大なベルファーム園内にある研修室を使いラベル製作を行うのです。

大きな研修室の無い当店にはとてもありがたい存在です。
そして松阪市の誇る施設ですので納豆体験ツアーだけでなくベルファームもご覧になられ、楽しくすごしていただけましたら私自身、松阪市民としてとても喜ばしく感じます。
ベルファーム(ゲートハウスに研修室があります)

嬉野豆腐野瀬商店
オリジナルラベルが完成をいたしましたら納豆体験ツアーのカリキュラムは全て終了となります。

納豆は発酵と熟成の工程がございますので1日では出来ません。
ですのでオリジナルラベルを当店の職人が完成した手づくり納豆に巻き、後日に冷蔵宅配便にてお客様にお届けをさせていただく形となるのです。
以上が当店の納豆体験ツアーの全容なのですが、ここに至るまでに様々な試行錯誤がございました。
その中でも最も思い悩んだのは"納豆は1日にして成らず"でした。

これは納豆職人道は長い経験が必要という意味でとらえずに「納豆の作業は1日では終わらない」という言葉通りの事で、つまり私自身で一番最初から、納豆の手づくり教室は無理だろうという考えであったことでした。

例えば、モクモク手づくりファーム(第七章にて既出)みたいにハムソーセージ手づくり体験や当時はまだございませんでしたが宮川村フォレストピアのこんにゃく作り、パン焼き体験みたいに1日あれば楽しめる作業ではなく、納豆は完成まで何日も必要となりますので日帰りで体験は出来ないものと思い込んでいたのです。
それが私の概念を破ってくださったのが嬉野豆腐野瀬商店様でした。野瀬さんはすでに多くの学校や主婦サークルに豆腐教室の講師として出張をされており、野瀬さんのまだ新しい社屋の2階では豆腐料理もふるまえる手づくり豆腐教室も人気になっておられました。

平成11年1月、野瀬さんよりそれまで色々なご指導をいただいてましたが「納豆教室をお前もやってみろよ」とご助言下さったのです。
それは地元市民とのコミュニケーション、観光資源としてレジャーの一つとして旅行者へPRできること、そのことで地域の特産品としてのブランド確立を行うことができることなど色々な効果を説いてくださいました。
事実、納豆体験ツアーを当店が開始してからというもの、テレビ局からの取材依頼をいただくようになり、市役所観光課や地元観光協会の皆様との結びつきが強くなっていきました。

話を戻しまして、なぜ納豆体験が可能になったのかを述べさせていただきますと、野瀬さんに納豆体験教室が難しいということを納豆工程説明しながらお話していた時に出た野瀬さんの一言「全部させんでもええやろ!(全ての工程をお客様にしていただかなくてもよいだろう)」でした。

目からウロコが落ちました「そうですね!楽しいところだけつまんで体験していただいたら良いんですよね。熟成してから冷蔵便で普段やっている通販と同じように宅配すれば良いんです!これならできるし、失敗しそうなところは職人でやったら良いし。」 (奥野)、 「おぉ!出来たやないか!」 (野瀬)。

かくして納豆体験ツアーは準備期間2ヶ月を経て春休みを見込む平成11年3月にスタートしたのです。
現在は直売所たぬみせも加わったことで、観光施設としての一面を持つ納豆工場として多くの旅行者の方々に立ち寄っていただいており、納豆専門店としての当店の特徴のひとつとなっております。

次回は「たぬみせ3大まつり」について述べさせていただきます。お楽しみに〜。

※ 応接間には松阪の資料やデザイン案帳もございますので
お客様はそれらを参考にラベル作成をされる方も多いです。

※ 松阪農業公園ベルファーム
松阪市の「農と匠の里事業」により設立された農業公園で色々な体験カリキュラムを楽しむことが出来ます。
運営は財団法人ベルファーム。
〒514-0845 三重県松阪市伊勢寺町551番地3 電話0598-63-0050
http://www.bellfarm.jp/

※ 奥伊勢宮川村フォレストピア
大自然の宮川村の村営ホテル。コテージも有り。
〒519-2513 三重県多気郡宮川村薗993番地 電話 0120-017137
http://www.vill.miyagawa.mie.jp/okuiseforestpia/

※ 嬉野豆腐 野瀬商店
自家農園大豆のこだわり豆腐で有名。
  〒515-2323 三重県松阪市嬉野権現前町775 電話0598-42-2521(代)
http://www.ureshino-toufu.jp/

 

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