「松阪から四季 納豆の如く」
納豆職人 奥野 敦哉
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情熱の赴くまま納豆新商品を創り、世に送り出してまいりました私の10年ですが、お客様の手元に届き、ご意見をいただくうちに、商品の本来のあるべきカタチというのが解かる場合がよくあります。そのようなときに商品の修正を行うのです。それはつまらなくするのではなく、より高みに昇るように「バージョンアップ」というかたちをとります。今月はそのような商品バージョンアップを行った過程、エピソードについて触れてまいります。 |
個人的にバージョンアップとして真っ先に思い浮かぶのが度々この掲載欄で名前だけ登場します「納豆ルネッサンスfrom松阪」という納豆です。この商品には、元々商品の最終完成形を設定していませんでした。つまり"ドンドンと進化していく納豆"の役割を持たせたものだったのです。これは、自分自身が納豆職人としてまだ確立されていないところで自分自身の成長を刻み続けていく標(しるべ)として誕生をさせたもので内容が少しずつ変わっていっております。そのことは、この納豆は自分がいつかは創りたいと思っていた「松阪納豆」ブランドをつくる布石になるものと位置付けて始めたことだったのです。松阪納豆自体は2005年1月1日に松阪市が5市町村合併で新たな松阪市になるのを記念してブランド立ち上げを行いました。これは自分の職人として完成を見たからではなく、未完成な自分であることは事実なのでタイミングとして、そこからライフワークとしての松阪納豆をブランドとして押し上げ続けていくことにしたのです。それほどに私にとっては新生松阪市のインパクトが強かったのです。 |
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納豆ルネッサンス
from松阪
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東京納豆
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この松阪納豆ブランドもすでに「バージョンアップ」の概念であります。この場合は当店の基幹ブランド「東京納豆」をバージョンアップしたような内容であり、東京納豆が庶民的な日常生活で安価に「安全な国産大豆100%納豆」を提供するコンセプトなのに対し松阪納豆は「ささやかなぜいたく」つまり、スーパーの売り場で表現するならば、冷蔵棚の下段を東京納豆が占めるなら、中段を占めるのが松阪納豆となるのです。もっと表現しますと棚上段には三重の地納豆シリーズが占めて納豆専門店としての品揃えが完成をするのです。
はなしは戻して、現在、中段に収まる商品でどれほどシックリといっている商品があるでしょうか?松阪納豆は奇をてらわずに納豆の内容で勝負(大豆は農場指定・松阪産100%にこだわり、納豆タレは当店高級納豆に使っている「奥野自然たれ」を添付します)金額は当店高級納豆の3分の2程度のお値打ち感で、無理なく日常生活にぜいたくを"奥野食品が保障して"提供する状況を創り上げるコンセプトなのです。 |
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松阪納豆は広い大きな意味でのバージョンアップですが、一つの商品においてのバージョンアップといたしましては東京納豆のタレが良い例で、タレは神戸平郡で変わらないのですが、最初の東京納豆タレは「安くても味が良い」が目的でした東京納豆は繰り返しますが毎日の食卓に登場できる値段を実現するためには原価を押さえなければならないのでタレもそれに見合ったものになります。 |
実際的に言いますとアミノ酸・化学調味料が入っていたのです。当店の化学調味料に対する考え方は「体には毒にはならない。一方、味覚を麻痺させる場合があるので、使わないで済むのならば抜くことを考える」です。タレメーカーさん側の商品コストを考えますとアミノ酸の旨さを自然のもので埋め合わせるためには別に色々な素材を使わなければならず、コスト高になり卸値も高くなるのです。バージョンアップとしましてはこのアミノ酸を抜いたもの、つまり味構成を自然のもので努力したもののタレに変えたのです。バージョンアップですから商品末端値段は同じ=タレ卸値も以前と変わらずです。これは神戸平郡商店さんが当店を見込んで価格を以前と同じにしてくださったのです。当時は当店の取り組みとして通信販売で東京納豆が都市部に売れ始めた頃で、珍しい品や高級品が通販を占める中で、庶民品が口コミで共同購入されるという東京納豆独特の現象が起こった頃です。新しい通販パターンが確立されようという情勢を考慮に入れて頂き、神戸平郡商店さんは当店に賭けてくれたのです。現在のタレはメイン東京納豆仕様で神戸たれ、高級品仕様で奥野自然たれとなっています。どちらも保存料・化学調味料未使用のたれです。
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釜作業です
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当店のバージョンアップは定義しますと、日々、当店納豆のバランスを考慮に入れながらお客様への還元をカタチ(値段は上げずに内容を良くしていくスタイル)にして実行していっております。
今回は幾分急ぎ足でしたので次回はテーマを限定せずに、今回バージョンアップで触れなかったことも入れた上で「冬の納豆屋生活(奥野納豆の場合)」とまいります。お楽しみに。
※ 納豆ルネッサンスfrom松阪は当初は三重県中粒納豆でタレは当店メインの神戸平郡タレを使用していました。バージョンアップは順を追って不定期に間が開きながら
[1]大豆が松阪産に限定された [2]タレを高級品仕様の奥野自然たれに変えた [3]大豆の大きさを中粒から大粒へ変えた [4]ラベルデザインを変えた
[5]たれを止めて伊勢醤油に変えた [6]かやくとしてかつお節を添付した [7]さらにフリーズドライねぎを添付した。この時点で松阪市合併により松阪納豆ブランドが誕生したことで、松阪納豆へのノウハウフィードバック納豆としての意味合いがなくなってしまったので、現在はスペックが固定し、必要性があるときのみに独自の個性としてバージョンアップしていく予定となっています。商品コンセプトとして「昔の大家族の食事シーンみたいに大黒柱のお父さんがドンブリに納豆を混ぜて皆の分を味つくる」という現在の核家族がもたらした個食文化と真っ向反する流れを創りたいと考えています。これぞルネッサンス!
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