「松阪から四季 納豆の如く」                  



納豆職人 奥野 敦哉
「第四章 “たぬみせ”のおはなし」

 サブタイトルの"たぬみせ"とは「"たぬき"の"おみせ"」という意味で当店の工場敷地内にある直売所のことです。建物はまだ新しく今年の7月開店でした。自社直売所を持つことは数年来の目標で始まりは平成7,8年頃、まだ元気だった父と一緒に仲の良い松阪のあられ屋さんの工場見学をさせていただいた時に工場の一部と一体化している直売店を目の当たりにしてからでした。和風の清潔なお店には贈答用あられが綺麗にディスプレイされていました。そこではお店番がいませんでした。お客様が玄関をくぐられたらチャイムが鳴り、事務所もしくは工場から社員の方がすぐお店へ移動するという仕組みでした。これなら人件費がかからないと感心したものでした。


 そしてその後、何かとご助言くださる隣町、嬉野豆腐の野瀬商店さんが直売店建築により押しも押されぬ三重県のブランドになっていった実体験を教えていただき、直売店建設を勧められるにつれ「いつかウチも直売所を・・・」と思うようになっていきました。しかし、常々、父からは「ウチは建ぺい率いっぱいだから新しく建てることはできない。するとしたら工場を一部削って店舗にするしかない。」と聞いていました。昔も今も工場は削るスペースがないほど目一杯使っています。店舗への想いがつのるばかりで時間は過ぎていったのです。


たぬみせ全体ライトアップされます
 そのような中、急展開を見せたのは昨年の9月でした。北海道は函館の百貨店で行われた「全国うまいもの大会」に参加した帰路、名古屋空港から四日市への高速バス車窓から変わった建物が妻には見えたのです。 私は疲れて寝ていたので見ていませんが妻が言うにはそれは"ツリーハウス"だったとのことです。おとぎばなしに出てくるような木の上に家が乗っているようなもの。 妻は私に「そのようなお店はできないの?」と尋ねたのです。工場前にツリーハウス・・・何かが始まる予感が私たちの心を躍らせました。


 松阪に帰り着き、すぐに2人の先輩に相談いたしました。一人はいつも相談に乗っていただいている浦川泰徳氏(この方とはある極秘プロジェクトを計画中)、そして浦川氏の相棒、松本正人氏。松本氏は地元で松本工務店というデザインが瑞々しいと評判の建築会社を経営されています。お二方と私の3人で妻、恵美が思うお店のイメージ像を引き出し、デザイナーさんがカタチにしていくということを行っていきました。問題の建ぺい率はもう一度正確に測ってみることになりました。目一杯という父の言葉を信じていた私ですが「ダメで元々、ダメなときは別の方法を考えよう。」とのお二方のお言葉に勇気づけられ調査をお願いしました。
入口ドアにも“たぬぷ〜店長”
 結果は12畳分の建物が建てられるとのこと、建築デザインが正式にスタートいたしました。季節は年末になっていました。

  入院していた父が他界したのが1月9日でした。年末に直売所設計が正式スタートした時に父に報告いたしました。病床で父は「おぉ、そうか!」とうなづいてくれました。 父に伝えられたことがせめてもの救いでした。父とずっと考えていたこと、やりたかったこと、遺志を継ぐこと、この"たぬみせ"は亡き父への供養なのだと自分の胸に刻みました。つまりこの"たぬみせ"の「内容」に妥協はしないと決意したのです。もちろん、建築のことは「専門家におまかせ」で文句は言わない、出来上がってからイメージと違っていても不満はいだかない、全て受け入れると決意したことは言うまでもございません。私たちの想いは全てお伝えしてあるのですから。

カウンターにも若おかみの絵・・(たぬぷ〜をさがすのも楽しい)
 四十九日が明けるのを待ち、詳細な工程スケジュールを打ち合わせ、工事にかかり、完成をみたのは6月末でした。 開店日は7月2日、納豆業界では7月10日が「納豆の日」として特別な日となっています。その前に1週間の助走期間が欲しかったのです。開店日は決定しています。工事期間に当てられる6月は梅雨まっただ中、雨との戦いです。幸い天が味方してくれたのでしょう、工程は順調に進んでいきました。もちろん、職人の皆様も休みを削って作業に従事していただいたおかげもございます。完成しお披露目開店してからの"たぬみせ"はその独特の雰囲気と扱っている内容が相乗して今なお松阪近郊の話題となっています。
 
 さて、ようやくこれからが本題なのですが"たぬみせ"のコンセプトは「納豆の工場直売、地産地消とぬいぐるみのお店」です。納豆の工場直売はすぐイメージが沸きます。先月号で説明いたしました「三重の地納豆シリーズ」「当店ならではの創作納豆」など毛色の変わった納豆をアンテナショップ的に販売しております。地産地消とは「その土地で生産された物をその土地で消費する活動」のことで"たぬみせ"では安心安全な地元特産品を選んで販売しております。そのラインナップはこれまでのお付き合いでそれぞれ生産者の方々から自慢された品々、思い入れたっぷりのものばかりなのです。さしずめ三重県特産品ミニ博物館の様相です。
ぬいぐるみと本日のオススメ掲示板

 そして「ぬいぐるみ」。これは"たぬみせオリジナル"です。キャラクターは文章作成時点で2種類「たぬぷ〜店長」「いせえび店長」を販売しています。第1期は4種類の予定でデザインは全て妻の恵美が描いています。
 

 そのようなお店"たぬみせ"の中でも一番のウリ、特徴は「納豆はかり売り」です。何がすごいのかは次回の説明とさせていただきます。


※ 高速バスで見たツリーハウスはその後いくら探しても見つけることはできませんでした。はたしてそれは現実の話だったのでしょうか?
※ 函館へ行くと転機が訪れます。その前年は会場で妻が当店公式キャラクターとして「たぬぷ〜店長」を創作したのです。
※ 創作納豆については別の機会に触れさせていただきます。

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