「松阪から四季 納豆の如く」
納豆職人 奥野 敦哉 |
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「第五章 納豆はかり売りは凄いかも」
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自転車の後ろ荷台に木箱をくくりつけた納豆売りが朝モヤの中、よく通る声で「ナットー」と誰もまだいない町なかを走り、その声で朝食の用意をしているお母さんが近くに納豆売りが来たことに気付いて、納豆売りに置き去りにされないように急いでお勝手口から飛び出し、「納豆ちょうだいっ!」とドンブリをひとつ差し出して納豆売りさんが木箱から家族人数分の納豆をすくい出して自家ドンブリに山盛ってもらう…。この"想像の光景"はあたかも自分が体験したかのような、まるで遠い昔の記憶、思い出のように心に染み付いていったのでした。 |
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納豆はかり売り | |||||||
納豆業界に身を置いて10年、納豆について様ざまな提案を考えてきましたが、その中でも「納豆はかり売り」は復古させたい思い入れの強いものでした。ただ、それは売り走る昔のスタイルではなく、お店を構えてお客様にお越しいただくものを想いました。ちょうど、お味噌屋さんが色々なお味噌桶からお客様のお好みで取り分けるような感じです。納豆でお好みの接客対応ができれば・・・そう心に秘めながらの1999年5月、伊勢神宮内宮前の「おかげ横丁」にて開催された老舗販売大会でこの想いは成就することになったのです。 |
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「何か変わったことをしてほしいなぁ。」とおかげ横丁担当者さんからのご要望があり「それならば納豆のはかり売りをさせてください。」とお願いしました。担当者さんも興味津々、ウチも興味津々、もちろんお客様も興味津々!で会場内当店ブースは賑わったのです。内容は地元三重県産の大粒、小粒、黒豆の納豆をそれぞれ専用のお櫃に入れて、注文はお客様から納豆を好きなだけのグラム量をシャモジでお櫃からすくい出して竹皮に包みお渡しします。 |
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おかえりコイン
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「大粒200gと、黒豆は初めてだから試しで黒豆も30g一緒に入れてちょうだい」とかいう具合です。こちらも対面コミュニケーションで「ありがとうございます。地元の大豆で作っているんですよ〜。黒豆はサッパリしていますから塩で食べると美味しいはずです。おススメですからちょっと余分目にサービスで入れておきますね。」なんて応対するのです。お客様は喜んで他のお客様に宣伝してくださいます。楽しいお買い物の輪が出来ていくのです。 |
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ぬいぐるみ?の看板
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この「おかえりコイン」はお客様の手で「おかえりコインBOX」に投下されるのです。BOXに溜まったコインは1枚あたり15円として社会のために寄付されるのです。これは「おかえりコインシステム」と呼ばれ、この取り組みは県内外から注目されています。 改めてその意義を考えてみますと、はかり売りにおいてお客様の身になれば、ただ値引きすることよりも「おかえりコインシステム」でMYどんぶりを用意する気持ちになってもらう方が満足度において高いと思えたのです。なぜなら値引きでは「買物の話」お得感だけで止まりますが、おかえりコインですとたとえ値引きはなくても「生き方の話」 |
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さらに「教育の話」、つまり自分の価値を高めることになるからです。子供さんと一緒のお買い物でその姿に子供さんは尊敬の念を抱くことでしょう。
思えば、現在、名店とされる納豆直売店は各地で頑張っておられますが、納豆はかり売りはあまり聞くことはございません、ましてメインになっているなんて特殊なことなのでしょう。 |
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たぬぷ〜
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私はこの独特さ加減こそお客様に愛される大切なものであると思っています。これからも大いに持ち続けていきたいものです。
次回はオーダーメイド納豆について書きます。
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※ たぬみせではお櫃でなく「納豆つぼ」を使っています。 |
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