「松阪から四季 納豆の如く」



納豆職人 奥野 敦哉

「第八章 オーダーメイド納豆エピソード2」
先々月「オーダーメイド納豆」に至るまでの身の上・心の動き(エピソード0)から始まり、先月ようやく「オーダーメイド納豆」のノウハウが出来上がるまでの成り行きを掲載できました。今月はオーダーメイドの納豆が定着していく様を、出会い物語を交え綴ってまいります。
小ロット製造のノウハウを生かして「伊勢ひじき納豆」「天然にがり納豆」「納豆ルネッサンスfrom松阪」と実験作開発を進めていった時、思い浮かんだのが「ウチのラインナップだけでなく個人展開をされているお店さんの個人向けのオリジナル納豆も同じノウハウで出来るやん」ということでした。あとはパートナーさんの出現を待つだけ・・・。
 
 
オリジナルラベルの一部です

まずご縁をいただいたのは名古屋のこだわりスーパーさんでした。大都市で地域密着を目指すスタイルに独自の商品揃えで進めていくところにオーダーメイド品はピッタリとのことでした。続き、こだわり卵農場売店や個性的な酒店、自然食品店さんとのお付き合いが始まりました。それぞれ納豆の中身も異なれば、ラベルもそれぞれのご要望で作成されます。あるラベルはお店のオリジナルキャラクターをあしらったりお店ロゴをレイアウトしたり、またあるラベルは当方でデザイン字を作成したり、お店外観をスケッチしラベル化したりいたしました。私自身は字がヘタクソですので字のデザインは姉との二人三脚でした。まるで昔の刑事ドラマでモンタージュを作るのに目撃者から特徴を聞きながら微妙に本物に近づけて描きなおしていく場面の如く、何度も何度もなおしながら私がイメージするラベルに近づけ完成にこぎつけるのです。姉は松阪市展にも絵画入選経験があるほどで作成されたデザインはお客様からの好感度が高かったのです。

そのような中、パートナーさんとの出会いも順調に増えてはきていましたがあくまでもマイナーな話でしたので劇的に広まるものではありませんでした。その状況が一変したのは先々月掲載「オーダーメイド納豆エピソード0」の冒頭に触れました東京葛飾の「気合豆腐埼玉屋本店」さんとの出会いからでした。

埼玉屋本店あるじ新井さんとの出会いは「納豆学会・三井田孝欧」さんの引き合わせによるものでした。あるじさんのお話ではこれまでお取引をされていた納豆屋さんが不況のあおりで廃業をされたのでかわりに"しっかりした食べ応えのある"納豆を三井田さんにお聞きして連絡したとのことでした。三井田さんはさらに"きめ細かに応対をしてくれる"と付け足してくださったそうです(三井田孝欧さんとのエピソードには改めて触れたいと思います)。

お電話で新井さんとお話をさせていただいているうちに私はとにかく新井さんにお会いしたくなりました。何度かの試作の後、プロトタイプがようやく出来上がり、段取りをつけて東京へ出発したのです。三井田さんも新潟柏崎から駆けつけて埼玉屋さんのお仲間の皆様と一緒に居酒屋「東邦酒場」さんにて試食会を行いました。皆様から色々とご意見をいただき、また、最後決まらなかった、添付するのを醤油にするかタレにするか塩にするか、どれにしようかというのも相談し、お開きになりました(後日、自然たれに決定)。

その場、お仲間の中には大桃豆腐さんもご一緒されていました。埼玉屋本店さんと大桃さんは豆腐研究グループ「遊心」のお仲間で、大桃さんの納豆も作成させていただくことになりました。またその後日談として、新井さんと大桃さんのお勧めで遊心リーダーの所沢高品質豆腐かむろ様の納豆も作成し、お三方が口コミでオーダーメイド納豆のことを遊心のメンバーはじめマスメディア、日本各地の豆腐屋仲間に紹介をしてくださいました。一気にパートナーさんも増え、こちら納豆工場もバラエティに富んだ状況になっております。
大豆の種類表です。これから72種類つくられる
上野とうふ店オリジナル納豆
この原稿を執筆時点で試作をしていますのは石川県白峰村の堅豆腐上野とうふ店さんのオーダーメイドです。上野さんも遊心メンバーで豆腐に対する思い入れも強く人間的にも信頼できる方です。最初は地元の農家さんの無農薬栽培大豆エンレイでの依頼でしたが、お客様の評判はあまり芳しくないとのことでした。大豆を変更して作成を続けることになり、上野さんから届いた大豆は「島根秘伝大豆」。これは大袖振大豆の一族で納豆菌発酵した味は旨味も甘味もバランス好く、食感もネットリとしてとても美味しい納豆となりました。

商品形態は50g×3トレーが良いとのことでした。そのときまでオーダーメイドはワラ100gタイプ・経木100gタイプ・50g×2トレータイプ・30g×3カップタイプ・100g×1トレータイプで3トレータイプは作成したことがありませんでした。これは手作りラベルの長さが2トレーを巻く長さしかなく3トレーにすればラベルにかかる費用が高くなりすぎるのが理由でした。この問題は私の盟友、愛知大府の高丸食品さんから解決策をいただきました。3トレーを和紙でなく透明のフィルムで巻き、トップ面のトレーとフィルムの間に和紙を挟み入れるのです。この方法は最初から最後まで手作業である和紙ラベルでなく従来の3トレー納豆の包装機を利用できますのである程度の量数を生産できるのです。高丸さんはこだわりチェーンショップブランドを手がけられていますので普段行っているこの方法を私に教えてくださったのです。私にとっては量数を生産できる恩恵より3トレータイプのオーダーメイドが提案できるのが有り難かったのです。

この文章を作成しているときに上野さんのプロトタイプは完成いたしました。この文が掲載されている頃、上野とうふ店オリジナル納豆の評判はどうなっていることでしょう?オーダーメイドは自分自身のライフワークです。ライフワークだらけの私ですが・・・。

3ヶ月にわたってオーダーメイドについて書いてきました。次回は目先を変えてクレオパトラといきましょう。何が「クレオパトラ」なのでしょうか?来月をお楽しみに。

※ 現在、製造商品の種類数は72種あります。その大半はオーダーメイドです。
※ 当店、三重の地納豆のデザイナーは漫画キャラ若おかみと描写流麗デザインの姉、新人の谷(芯が一本通った素朴で明瞭なデザインをします)、筆者(謎のヒラメキ)の4名です。
※ 埼玉屋本店様オーダーメイドの気合納豆は気合豆腐と同じく「熟成タマホマレ」を原料大豆としております。
大桃豆腐様のオーダーメイドの大桃納豆も豆腐と同じく「長野ナカセンナリ→岩手秘伝大豆・宮城黒神」となっております。
※ 世界最大の納豆サイト「納豆学会」
http://www.nattou.com
こだわり豆腐屋のサイト「豆腐を愛する豆腐屋の集い・遊心」
http://www.tofuya.net/~yushin/

 

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