「松阪から四季 納豆の如く」                  



納豆職人 奥野 敦哉
「第九章 クレオパトラの幸せとは?前編」
平成16年7月2日に当店直売所「たぬみせ」が開店しましたことは第四章で触れさせていただきましたが、開店の際"たぬみせ開店記念商品"として発売となった作品がございます。その名は「神秘納豆 クレオパトラの幸せ」です。

「神秘納豆 クレオパトラの幸せ」は特殊な納豆でハーブオイルに漬け込んだ納豆です。オイルに使われるハーブはエジプトの古代ハーブ「キフィ」というもので、かのクレオパトラも愛用したと伝えられています。そのハーブオイル納豆は添付の「バラの華ビラ」「真珠の粉」「自然塩」「くろす蜂蜜」をお好みでトッピングして召し上がっていただく商品なのです。スタイルは写真の如くピラミッド型、オイル漬け納豆は黄金のビンに入り、普通の納豆の如くたっぷり食べるでなく一日1〜2粒を幾日にも渡り大事に摂取していただくもので商品価格も1600円という破格な納豆なのです。
クレオパトラの幸せ
パッケージと中身
お召し上がり説明書の裏側には
分かり易く絵で説明されています

ピラミッドの中には「お召し上がり説明書」なる巻物が同封されていましてお買い上げいただく時に「必ず先に目を通していただいてからお召し上がりください」とご案内しております。食べ方や材料の詳しい説明とか商品コンセプト、エピソードはこの長い説明巻物を一読されたお客様ならばご理解いただけるようになっているのです。また、インターネットをご覧になる本誌読者の皆様には当店サイト「三重の地納豆・クレオパトラの幸せ」のページ(http://www.nattouya.com/kleopatra.htm)へアクセスされましたならば商品のコンセプトはバッチリご理解いただけることでしょう。

前置きが長くなってしまいましたが(いつものことですが)今月はその説明巻物で書く事が出来なかった誕生秘話について述べていこうと思っております。

事の発端は平成15年のゴールデンウィークでした。神奈川県横須賀市の百貨店にて三重県ふるさとイベントが行われた時、現地販売員をしてくださっている方(当店のヘビーユーザーでもあります)が当店のラインナップの一つ松阪モロヘイヤ納豆を見て「この商品、クレオパトラ納豆にすれば売れるのに・・・」とつぶやきました。それが私に聞こえました。「お・・・おもしろい!その響きすごい。それはモロヘイヤ納豆を改名せずに新しいクレオパトラ納豆を創りますよ!」そこから全てがスタートしたのです。
クレオパトラと絡む商品を開発することは決意したのですが、イメージは何も思い浮かびません。商品を産み出すに当たりましてまずは「コンセプト」についてじっくりと考えていったのです。産み出す話を進める前に当店(私が)行っていく商品開発の考えを説明させていただきます。通常、当店では商品が出来ていくまでは商品の心魂(コンセプト・存在意義)を決めてから身体(使用大豆・混ぜたり添付したりする副原料・当店ならではのアイデアひねり)を徐々に加えていきます。商品の心魂と身体をにらみながら化粧装い(納豆容器・ラベル・ラッピング・商品バランス)を整えていきます。そしてコンセプト決定から商品最終完成までの全ての選択に影響を与えるのが「工場での作業工程へのフィッティング」とそれぞれの部分で経験する「エピソード・出会い」つまり"奥野納豆らしさ"なのです。話は戻ってクレオパトラ納豆のコンセプトですが、これがハッキリした形になるまでに3ヶ月かかりました。

最初の土台は「納豆は日本独自のもの、さすがのクレオパトラもまさか納豆は食べていまい」ということでした。ではどのようにクレオパトラと結び付けていくか・・・そこに悩んだのです。そこでまず思い浮かんだのは「巷に"クレオパトラが愛用した○×△・・・"という文、商品が溢れている」ということでした。それをまず洗い出してみようと考えたのです。少し調べてみると出てくる、出てくる。クレオパトラに関係ないこれは丸きり便乗商法だなというものまでありました(でも納豆もそうかも・・・)。色々出てくる中で納豆の輪郭が少し姿を現してきました。それは「美しさ」です!そして美しさは「健康」から・・・。

現代、クレオパトラの名を記す多種多様な商品のほとんどは「美しさ」「健康」に関わっているものですが、納豆はそのままでも美と健康を連想させます。ではその上にクレオパトラの名を冠する納豆とはどのようなものになるのか?さらに悩みは深くなりました。ヤケになった私は「クレオパトラの"ごった煮"をしよう」と考えてしまったのです。大多数のクレオパトラ商品はおそらくその商品ありきからクレオパトラのエピソードをフィットさせる手法をとるのでしょうが、納豆の場合は各クレオパトラエピソードありきで、エピソード達をできるだけ数多く絡ませて納豆を創り組み上げようとしたのです。"ごった煮"ではクレオパトラに失礼ですね。言い換えますとそれは「クレオパトラのオーケストラ」納豆創りなのですね。

輪郭は決まりましたがこれをコンセプトに昇華させてはじめて心魂が商品に宿ります。次の段階は輪郭の内で題材・納豆・新発想というパズルを組み合わせる作業となります。クレオパトラについて色々な文献を調べ進んでいきますと美容キーワードとして「アロマテラピー(ハーブ・オイルマッサージ・塩マッサージ)」趣味のキーワードとして「バラの愛用」クレオパトラならではのエピソードとして「真珠を酢に溶かして飲み干すという史上最も豪華な食事会」というのが主になっている資料が多いことに気付きました。ならば、これらを絡ませれば出来上がる。しかし、一見無関係のものばかり・・・これをパズル作業するのです。
パズル作業はそれぞれ一通りメインテーマにした場合のことをまずイメージします。真珠納豆?どのようにして真珠を納豆で表現するの?高価だし・・・。次はハーブ納豆、ハーブ納豆というのは以前から私の開発アイデアのひとつとして温めていました。ハーブ園を見学していたときにハーブの芳香を加えて面白い納豆に出来ると思ったのです。「では、今回は"ハーブ納豆"をメインテーマにしようかなぁ、それにバラの華もハーブの一種だしね。」ということでハーブ納豆に決定。続いてどのような形でハーブ?と思考・・・「バラの華ビラを納豆に植え込んで一緒に発酵させようか、でもそうすると商品に広がりがなく他の要素を盛り込めないし・・・ハーブティーを煎じてそれを仕込み水にするか?う〜ん、それも単品、ローズ納豆やハーブティー納豆のネーミングだなぁ、それだけだったらクレオパトラにならない・・・もっと包みまとめるようなものを考えないと。ん、そういえばオイルマッサージというキーワードがあったな。ハーブとオイルでハーブオイルはどうだろう。オイルと納豆はどちらも複数のものを一緒に結び付ける力がある。」

実は"オイル納豆"というのも以前から私の開発アイデアにありました。松阪には松阪牛の土地らしく焼肉屋さんが多いのですが、焼肉屋さんの中にはレバー刺身をメニューに出すところが多いのですが、塩の入ったゴマ油にレバー刺身をつけて食べるのです。ゴマ油が肉の臭みを包んでレバーの旨味が冴えてとても美味しいのです。これは納豆でも当てはまるのではないかと思っていました。事実、私の小学生時代に納豆にゴマ油を入れてよく食べていました。香りが良く美味しかったのです。ですので今回のハーブオイルのベースオイルにゴマ油を考えました。ただし、ハーブを漬け込みますので香りのしない"太白ゴマ油"を選ぶことにいたしました。これでようやく商品コンセプトが出来上がったのです。
3ヶ月を要して出来上がった商品コンセプトは「ハーブ(クレオパトラ愛用の)のオイル漬けをした美容健康納豆で商品内にクレオパトラ気分を満喫するイベント要素を盛り込んだ作品」それを軸にクレオパトラの伝説を納豆につないでいくのです。(次回に続く)

※ モロヘイヤはエジプト王家の野菜として日本で普及しました。クレオパトラも美容に役立てたという説があります。
※ 誕生の発端は松阪モロヘイヤ納豆の改名案からですが、クレオパトラの幸せにはモロヘイヤは使用していません。クレオパトラの納豆はそれ自身で商品の性格があり、別商品の松阪モロヘイヤ納豆と性格を無理にかぶせる必要がないと判断したからです。(この判断も長い時間がかかりました)
※ ゴマ油は三重県は四日市の特産、九鬼産業の九鬼太白純正胡麻油を使用することにいたしました。九鬼さんのお話では「この太白はマッサージオイルとしても使用されている実績がある」とのことでした。
九鬼産業ホームページ http://www.kuki-info.co.jp/

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