「松阪から四季 納豆の如く」                  



納豆職人 奥野 敦哉
「第十章 クレオパトラの幸せとは?中編」
前編ではクレオパトラ納豆の商品コンセプト=商品心魂が出来上がるまでを書きましたが、この中編では商品内容の完成に至るまでの「出会い」エピソードについて触れてまいります。

商品コンセプトが固まったならば、商品内容を創りあげていきます。それは商品の心魂に対して身体ともいうべきもので、イメージングが主だったこれまでの作業から、実践的な商品開発作業にかかっていくところなのです。

「ハーブ(クレオパトラ愛用の)のオイル漬けをした美容健康納豆で商品内にクレオパトラ気分を満喫するイベント要素を盛り込んだ作品」というのがクレオパトラ納豆の商品コンセプトですのでまずハーブオイルのベースハーブを決めなければなりません。クレオパトラ愛用のハーブをまず調べます。出てくるのは第一に「バラ」、第二に「カモミール」、第三に「じゃ香」、第四に「キフィ」。リストアップできたこの四つから考えよう。それぞれをブレンドすることも含んで。しかし、そこで私に心の声が聞こえてきました「キフィにすべし!」。パッと見て4つ目のキフィだけはマイナーです。何かエジプトチック、他の3つは見かけますがキフィは初めて知りました。文献には「キフィ=ケプオスのピラミッドから発見されたパピルスに記載されている古代ハーブ」とのことでした。何か探検家が宝物を発見したが如く心をくすぐります。この感覚がクレオパトラ納豆に欲しかったのでベースハーブをキフィに決定いたしました。次はキフィをどのように調達するかが問題です。

やはりキフィはマイナーで一般店のハーブコーナーには売っていませんでした。通信販売でどこか扱っていないか調べましたが、安眠を誘うお香(アロマーテラピー用)として一部通販されているだけでハーブティーとか食用では売っていないようです。そもそも食用ではないのかもしれません。更に文献を調べなおすとキフィはブレンドハーブでそのブレンドレシピは文献によって違っていました。ただそれら複数レシピに使われているハーブの種類を書き出してみました。たしかに普通に食用にされているものと食用できそうにないものが混ざっているようでした。でも私にはその非食用に見えるものが、それでも食用にして問題ないものであるのか、はたまた、毒になるので絶対に食用にしてはいけないものなのかなど、文献通りの調合レシピに入れるのか外すのか判断に自信が持てず、これは「専門家」に調合をお任せしたほうが良いと思うようになりました。食用にする物なので不安なところは無くしておきたかったからです。

ハーブの専門家との出会いには時間を要しました。ハーブを種類豊富に揃えているところは数件あるものの、調合まで行うところ、それもマイナーなコチラのオーダーにつきあってくれるところは地元ではなかなか見つかりませんでした。私独りでは出会いに限界があり、私は「エコデスよっかいち」を運営されている奥出さんに相談をさせていただきました。奥出さんには三重県の地元おこし活動の情報が集まります。これまでも私は開発に行き詰まると奥出さんからヒントをお聞きし、何度も助け舟にのせてもらっているのです。

奥出さんでもハーブ専門家とのお付き合いはありませんでしたが、ウワサで渡会町と勢和村にハーブ関係のお店情報を聞いたことがあるとのことでした。私はまず松阪に近い勢和村に出かけました。勢和村は日本薬草学の先駆者である学者「野呂元丈」を讃える「元丈の館」という施設がオープンしハーブで村おこしをしていく方向にありました。しかし、残念ながらスタートしたばかりで将来的には行いたいが、現状でオーダーブレンドまではまだ考えられないとのことでした。

気を取りなおして度会町へ。コチラは「ハーブスわきやま」というお店です。実は数年前にこのお店の近くを通り、素敵な外観だなぁと感じたお店で、その当時は急いでいて寄りませんでしたが興味を惹かれたことを思い出しました。

初めて店内に入りますと優しげなご主人、脇山さんが「いらっしゃいませ」と迎えてくださり、ヒーリングミュージックのBGM、ログハウスの内装や薪ストーブの柔らかさ、アロマーな空間は時間の流れを忘れさせてくれました。オリジナルハーブティーを飲み終えて私は初対面の脇山さんに相談をいたしました。「クレオパトラ納豆」というのを今考えています。・・・」脇山さんにクレオパトラ納豆の概要、キフィのレシピ、そして食用への不安を伝えさせていただけました。脇山さんは「ウチへ持ってきていただいて良かった。恐らくこれをやり切ることのできるのは三重県ではウチくらいでしょう!時間は少しいただきますが任せてください。出来たらお知らせします。」とおっしゃってくださったのです。
ハーブスわきやま外観
ハーブオイル漬け納豆実験
二週間後お電話があり、私は度会町へ向かいました。キフィは使われていた可能性の高い16種類の原材料からハーブオイル用(食用)に出来る5種類へと監修していただいたのです。目の前には、 [1]キフィベースのみ・ [2]キフィベース+ローズ・ [3]キフィベース+カモミールの三袋。それぞれをハーブオイルにして具合の良いものに決定をすることにし、納豆工場に持ち帰りました。到着後ゴマオイルにそれぞれ漬け込み密封をして二週間待ちました。ハーブオイル完成後、それぞれのオイルで納豆漬けをつくり味見をいたしました。結果は、 [1]のキフィベースのみのものが一番シンプルで私好みでした。ローズは、ゴージャスさがあったのですが、これは後から加えたほうが鮮烈でローズの香りを活かすのではないかと思えました。カモミールの方は味・香りともキフィに被る部分があり、特徴がボヤケましたので今回は使わないことにいたしました。

さて、ローズの「後加え」の件ですが、ハーブスわきやまさんのオリジナルハーブティーの試供パックがイメージに浮かびました。それは試供品として透明の小袋に1杯分のオリジナルブレンドハーブが入れてあるもので、先日いただいたものでした。これにローズリーフのみ入れてもらえば「かやく」としてクレオパトラ納豆に添付できます。早速、脇山さんにキフィハーブベース用と一緒にローズ小袋をお願いいたしました。念のため脇山さんにローズリーフは食用にして良いかお聞きしましたところ「もちろん大丈夫です。ビタミンCが壊れず残っているので美容に良いのですよ。」とおっしゃっていただきました。クレオパトラのイメージにピッタリです。

キフィハーブオイルにトッピングでバラの華、これで商品の骨格が出来たようなものです。せっかくならトッピングは多いほうが良いし、最初のコンセプト「クレオパトラのごった煮=オーケストラ」そのもので、クレオパトラゆかりの食材をどれだけ絡めることが出来るかの余地に他なりません。また、トッピングとは、お客様が商品を楽しむにあたって体験していく"イベント"でもあります。もう一度文献あさりに戻ります。

クレオパトラのエピソードで最もインパクトがあるのが、真珠を酢に溶かして飲み干すという場面です。キーワード「真珠」と「酢」。当店は基本的な考えとして「なるべく地元材料もしくは地元商店の商材でまかなう、地元に無ければ国内産でまかなう」方針を商品開発に反映させています。この場合もその基本方針に照らします。真珠の粉については三重県が誇る名湯、榊原温泉の老舗旅館「湯元榊原館」さんの"美と健康をテーマとした ふるさと会席"に前々から興味があり、そのメインイベントが「湯元榊原館オリジナル真珠粉」だったのです。私は湯元榊原館さんを訪ね、クレオパトラ納豆のことを説明いたしました。担当の瀧澤さんは「料理にふりかけることで美容はもちろん、料理の味も一段と引き立てる」と教えていただきました。私は商品開発のエピソードを大切にしたい思いがございましたので、クレオパトラ納豆のパッケージに湯元榊原館さんのお名前を入れさせていただきたく思い、お願いいたしましたところ、快諾していただきました(このお名前をお借りするスタンスは同じく今回ご縁をいただきました皆様にご協力をいただいております)。かくして真珠粉はトッピングとして加わったのです。
クレオパトラ完成品

次に酢ですが、酢は三重県に日本一と噂される素晴らしいお酢がございます。以前より個人的にお世話になっているのですが熊野紀宝町「みふね酢 中野商店」さんです。こちらの"玄米黒酒酢(くろす)=参年熟成の玄米酢"が絶品でいつかは商品に使いたいと考えていました。

中野さんは兄みたいな存在でいつも助言してくださいます。このクレオパトラ納豆に添付するカタチは「くろす蜂蜜」の状態なのですが、酢に蜂蜜を合わせる方法も中野さんからお教えいただいたものでした。蜂蜜ももちろん地元産で、南勢町の長谷川養蜂さんからいただいております。この年は蜂蜜不作の年でしたが、クレオパトラ納豆の意義に賛同をしていただき、貴重な南勢町地元花の蜂蜜を用意してくださったのです。

酢プラス蜂蜜で商品に酸味と甘味を加えることができました。
味覚の話になるのですが、商品の風味は基本の旨味に塩味・甘味・酸味・香味が加わることで立体的なものになります。基本の旨味は納豆とオイルから、香味はハーブから、甘味と酸味はくろす蜂蜜から取り入れることができるカタチなのです。あと足りないのは「最初の味覚=塩」です。塩は夫婦岩で有名な二見町の健康旅館「岩戸館」さんのおかみさんが造る「岩戸の塩」です。岩戸の塩は私にとって最も馴染みのある自然塩で"三重県で塩といえば岩戸の塩"というほどの特産となっているのです。岩戸館のおかみさんにも普段から何かとご助言をいただいております。クレオパトラ納豆についても「あんたが使うのなら、どの使い方でも文句はないよ」とおっしゃっていただきました。この岩戸の塩は不思議な塩で"神々から贈られた塩"として使われ方を塩自身が決めているフシがあるのです。まさにご縁がなければ巡り会えない塩なのです。

キーワードとしての「蜂蜜」そして「塩」はともにクレオパトラが愛用していたと文献に載っております。「バラの華」「酢」「真珠」とあわせ、クレオパトラ納豆を彩るエピソードのトッピングがこれでようやく揃ったのです。
次回はとうとう完成商品として世に送り出していくお話です。お楽しみに。

※ エコデスよっかいち
  地元情報が集まるお店。地産地消基地。
  三重県四日市市諏訪町15‐1 電話 0593‐50‐2530
  http://www.ecodes.ne.jp/yokkaichi/
※ 元丈の館
  三重県多気郡勢和村波多瀬 電話 0598-49-3933
  http://www.vill.seiwa.mie.jp/hatase.htm
※ ハーブスわきやま
  度会郡度会町葛原778-1 電話 0596-62-1870
  http://homepage3.nifty.com/herbswakiyama/
※ 湯元榊原館
  三重県久居市榊原町5970 電話 059-252-0206(代)
  http://www.yumoto-sakaki.co.jp/
※ みふね酢 中野商店
  三重県津市栗真町屋町795‐2 電話 059‐232-3977
  http://passage-mall.cwj.jp/nakasho/shop.html
※ 長谷川養蜂
  三重県度会郡南勢町押渕1295-2 電話0599-65-3625
※ 岩戸館
  三重県度会郡二見町大字江566-9 電話0596-43-2122(代)
  http://www15.ocn.ne.jp/~iwatokan/


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