「松阪から四季 納豆の如く」 納豆職人 奥野 敦哉 |
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「第十一章 クレオパトラの幸せとは?後編」
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先々月、前編ではクレオパトラ納豆の商品コンセプト=商品心魂が出来上がるまでを、先月の中編では商品内容の完成に至るまでを、そしてこの後編では世に送り出すまでの「出会い」エピソードについて触れてまいります。 長い月日をかけてようやく商品の内容は固まったのですが、肝心な「お客様にお届けする姿」つまり商品の容器に何を使うかがまだイメージ出来ていませんでした。オイルをどのように充填するのか、そこが一番の問題でした。少なくとも密封が出来ない普通の納豆トレー・カップは使えません。もちろんワラや経木も。 では、それ以外になると・・・ビニール袋チューブがまず浮かびました。当店でもチューブ納豆は存在しますので可能です。でも、お客様が開封するときにオイルが飛び散りそうでとても不安でした。出来れば使いたくない。思案しながら日だけ過ぎていきました。 |
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小西さんの大阪精巧ガラス社はガラス製品の中でもビン、それも普通のビンでなくデザインビンを造る会社さんでした。 色々なガラスにまつわるお話の中、あるガラスビンのことを提案されました。 何か納豆に使うことができないかと提案されたそのビンは化粧品用ガラスビンで、使って一向に飽きが来ないデザインであり、普通のビンとは感覚がまったく違うとのことでした。ちなみに飯高物産の新商品ジャムに使用が決定しているビンとのことで横山さんも一目でその形に惚れ込んだそうです。 偶然お会いしてからの話しでしたので見本はありませんでした。ですのでイメージ説明だけでしたが私には何か良いものが伝わったのです。その瞬間、私はハッとしました。そうだ!ビンだ!これでオイル充填問題が解決する。それに化粧品用のビン・・高貴なイメージはクレオパトラにピッタリじゃないか!このめぐり合わせのタイミング、横山さんと商品自身の産まれようとする力に感謝しました。 クレオパトラ納豆のことを小西さんに説明し別れて数日後、若おかみも交え、小西さんと綿密な打ち合わせを納豆屋応接間で行いました。 現物のビンを見て私は思いました、微妙にカーブし慎ましやかであり、それでも目を惹きつける。形もさることながら、目を引くのはそのガラスのクリア感、シャープさでした。説明では透明度の高いガラス質で一般には出回っていないとのこと、まさに女性の美意識に寄り添う資格のあるビンだったのです。 私たち夫婦も横山さん同様、一目でビンに惚れ込みました。 サイズが大小あり、私は少量を楽しむバランスがクレオパトラらしいと感じ、小サイズの方を選びました。それが偶然、考えていた商品内容量の「納豆分50g+ハーブオイル分50g」を入れますと、これ以外にクレオパトラの容器はないというくらいピッタリとなったのです。 小西さんはもうひとつプレゼントを持ってきてくれていました。「あと、これも見てください」と取り出したのは黄金のワインボトル!私たちは目を奪われました。 黄金コートしてあるのです。塗ってあるレベルではありません。黄金そのものです。 「これは自動車に色をつけるのと同じコーティング方法です。実は、ある酒造メーカー用にこの黄金の焼酎のボトルを創ったのですが、中身が外から見えないという理由で最後に採用見送りになったのです。メーカーさんも気に入っていたのですが・・・」とのこと。 その黄金をクレオパトラ用のビンにコーティングできれば・・・イメージはまさに王朝ロマン!ではないでしょうか。ここにクレオパトラ納豆の容器は黄金のビンとして決定したのです。 |
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技研紙業にお渡しした7枚の絵は若おかみ、妻の恵美が描いたものでした。 これは商品内容が決定した頃から妻に宿題でお願いしていたものです。お願いとは言っても、たぬぷ〜店長を創作した才能ならば、たとえ難しいと本人が嫌がっていても出来るはずだと半ば強引に命令をしたのです。ピラミッドの箱形は技研紙業さんに相談するまでには私の胸のうちに出来上がっていました。これはコンセプトが出来たときにすでに何となくイメージが浮かんでいたのです。 話は7枚の絵に戻ります。 私が指示をしたのはまず1番目はクレオパトラの顔、2番目は古代エジプト衣装の召し使い姿たぬぷ〜、3番目はディフォルメされたピラミッド&スフィンクス(たぬぷ〜顔)、4番目は旅人たぬぷ〜(らくだに乗って)、5番目はナイル川、6番目は怪しげな実験室で実験しているたぬぷ〜(レンガの窓から夜空の星が見える図も一緒に)の6枚でした。 強引に妻に描くよう日々脅迫していたのですが、少しずつ描くうちにだんだんとたぬぷ〜も表情が活き活きとしてきて、すごく楽しい絵が産まれていきました。 それこそ私のイメージ以上の出来栄えでした。妻の才能はさらに開花したのです(今では、どのようなたぬぷ〜でも一筆で描き出せます)。 妻の才能はさらにもう一枚を生み出しました。添付の具をそれぞれ、たぬぷ〜が説明する図です。それぞれのたぬぷ〜の表情が見事でした。妻いわく「このような絵を描いてみた。イイでショ。」その1枚を加え出来上がった7枚を技研紙業さんに渡したのです。 私の構成イメージではピラミッドの正面はタイトルですからクレオパトラの顔が大きくあり、その周りに召し使いのたぬぷ〜が動き回っている図。側面はエジプト旅情を表わすピラミッドにスフィンクスを背景に旅人たぬぷ〜の図。一方の側面はナイル川景色の上、空いているスペースに商品説明句。正面の逆側、背面は商品原材料などの一括表示枠とトッピング品の表示枠の合間に実験たぬぷ〜を配置し、怪しげな調合がなされているイメージを狙いました。 そしてオマケの一枚、思わぬ妻からのプレゼントは何と底面に配置しました。ピラミッドを裏返してみるとたぬぷ〜のトッピング説明図が出てきます(でも、たぬぷ〜がしゃべっているわけではありません。たぬぷ〜は実践しているだけで説明はナレーションなのです。なぜなら"漢字を使うことができない"キャラクターのたぬぷ〜店長なので、漢字表記説明されているのは別人のものなのでしょう。) |
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少女漫画風クレオパトラ(若おかみ作) |
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クレオパトラ納豆の章の最後に、なぜメイン絵のクレオパトラが少女マンガ風だったのかについて触れていきましょう。 最初、この商品のタイトルは「クレオパトラの憂鬱(ゆううつ)」でした。その理由は"この作品が踏み込もうとする「美」とはクレオパトラが最も敏感に考えた関心事のひとつであり、クレオパトラのみならず、現代人にとり、良きにしろ悪きにしろ否応無く現代社会で巻き込まれる判断材料であり、自身が生涯付き合っていく個性である。 「憂鬱」はこの場合「間接的で集約的な暗喩応援」であり、また「逆説的な表現」が誘うインパクトの強さを考慮したものなのである。"というものでした。 また、クレオパトラのメイン絵も面長の端正な大人の女性をイメージしていました。 再度問いかけます、なぜ少女マンガ風になったのでしょうか。なぜ「憂鬱」が「幸せ」に変わったのでしょうか・・・。答え、それは1冊の少女漫画(漢字で書きます)との出会いからでした。その漫画作品は巨匠里中満智子先生の「クレオパトラ」です。 クレオパトラに関する硬い文献ばかりでは感情移入ができないと考えた私は本屋に行き「クレオパトラ」を購入し、繰り返し読み込んだのです。 里中先生の作品に流れるテーゼは"愛=献身"でした。それは夫への愛、子への愛、国民への愛でした。 愛あふれた生涯を全うしたクレオパトラに憂鬱は似合うでしょうか?答えは「否」です。自ら命を閉ざしたクレオパトラですが愛に捧げたその姿には「幸せ」こそふさわしいのではないでしょうか。 クレオパトラにあやかってお客様に幸せを感じていただきたい、そして多くの方からいただいた愛情を忘れない作品、「神秘納豆 クレオパトラの幸せ」はその願いを込めて一つずつ造りあげているのです。 ・・・すこしクサかったでしょうか? 次回はペースを戻して納豆体験(手作り)教室について触れていきます。 お楽しみに。 |
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※現在(文章作成時点)オリジナルキャラクターは「たぬぷ〜店長」の他、「イセエビ店長(伊勢海老)」「うさぴょん店長(うさぎ)」「けろけろ店長(カエル)」の4種類です。それぞれ特徴があり、たぬぷ〜は「漢字が使えない」、イセエビは「いつも寝ぼけている」、うさぴょんは「いつもビックリしている」、けろけろは「帽子が頭から浮かんでいる」が個性でぬいぐるみに表現してあるのです。また、若おかみは現在、お客様からご要望があった"猫のキャラクター"を構想中です。
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